錬金術師ゲンドウ

あとがき

「錬金術師ゲンドウ」を書いたのは、前世紀になるんですね。二十世紀末。この作品を土台にして「福音の少年シリーズ」というライトノベルのシリーズを七冊書きましたが、ウェブで公開していた二次創作のほうの「錬金術師ゲンドウ」という作品そのものに手を入…

最終話 「愛の錬金術」

『闇の王子』は、倒れている少年と、その少年を必死に守ろうとしている愚かなアストラル体を見下ろしていた。そのとき、十四歳の少年の肉体を持つ彼の耳に、この街の様々な音が流れ込んでいた。犬が、町中の犬たちが一斉に空に向かってほえていた。威嚇すると…

第十一話「闇の王子(後編)」

日本は平和だった。意外なほど平和だった。日本からはるか離れたアメリカはアリゾナ州の巨大な要塞のなかで、アメリカ大陸担当の『ウィザード』、『ウィズ・ブリティッシュ』が落胆するほど平和だったと言っていい。彼にしても『闇の王子』が、巨大な、頭が三…

第七話「ゲンドウ不倫する?」

公認錬金術師、碇ゲンドウの朝は遅い。目を覚ますと、息子の居候の小娘は中学校に行ったあとだし、妻のユイは自分の部屋にしている納戸の中で薬草をこね回している。彼は、のそのそと台所へ行き、食パンを一切れオーブントースターに放り込むと五の目盛りまで…

第四話「台風がやってきた! (後編)」

土曜日の明け方。ユイは、風の音で目を覚ました。隣に夫のゲンドウが寝ている。いぎたなくいびきをかいていた。薄い色の付いた眼鏡を外し、口をうっすらと開けている。寝顔を見ていると、やせっぽちの、ひょろりとした青年の面影がある。ゆ、ユイさん、今度須…

第三話「台風がやってきた! (前編)」

碇ゲンドウは錬金術師である。彼は久しぶりにその本業である金作りにいそしんでいた。彼の仕事場は自宅である木造二階建ての一階の座敷を改造した実験室だった。畳が外されているのはもちろんのこと、部屋の中央にデンと据え付けられた「反応炉」の部分は床さ…